スケート雑感

最後の試合に臨むハビについて

今日から始まっているヨーロッパ選手権ですが、この大会で一番注目しているのは、ハビエル・フェルナンデスが出場するということ。
そして、それが彼にとって、現役最後の試合になるということです。

2017年の世界選手権にて

どの試合が最後になるのか……試合をしてみないと最後になるかどうかは選手本人にもわからないことも多いし、怪我で突然キャリアが終わることもあるのでなんともいえないものですが、こうやって事前に教えてくれて、その通りに(多分)なるというのは、応援する者にとってはとてもありがたいことです。
ハビは、現在、ヨーロッパ選手権で6連覇しています。
平昌五輪後に唯一出場するのがこのヨーロッパ選手権だというところに、この大会への思い入れも感じられるような気もします。

いつも同じことを言っているのだけど、ハビを初めて知ったのは2007年東京での世界選手権でした。
たしか、ジュベールたちと一緒の練習グループだったと思うのだけど、大きなジャンプのジュベールにかき消されないトリプルアクセルを跳んでいました。
降りたり、激しく転倒したり、だったけれど。
とても印象深いトリプルアクセルで、一緒に見ていた人たちと、あの子、気になるよねーと話をしたことも覚えています。
でも、ショートプログラム35位で、フリーに進めませんでした。

翌年イエテボリの世界選手権では、朝6時過ぎからのハビの練習グループを見にプラクティスリンクへと、まだ暗い雪道を歩いて行ったのに、外からはリンクに入れず、右往左往したのちになんとか入ると、当たり前だけどそんな朝の練習には誰もいなかった、なんてこともありました。

イエテボリでは予選がなく、ショートでフリーへの通過24人が決まる、というものだったのですが、45人の出場選手のなかで2番滑走だったハビは、この年は30位。残念ながらまたもフリーには行けませんでした。

ハビの演技中、私はちょうど井上怜奈さんとジョン・ボールドウィンさんのインタビューをしていました。
横にあったモニターで、会場の試合模様を見ることができたので、「この選手、いいんですよ」というと、ジョンが「この辺りの順位の選手のことをなぜ知ってるの?」と。「去年の練習でジャンプが良かったから」と言うと、モニターでハビの演技を見ながら、「たしかに、彼はうまくなりそうだね」と言っていました。

試合後に会ったハビはまだ英語がわからなかったのですが、同じスペインの女子選手のソニア・ラフエンテちゃんやコーチに訳してもらって、「オリンピックに出ることが夢」「4回転サルコウは跳べている」ということを教えてもらいました。

そのあたりから少しずつ成績を残すようになり、2010年のバンクーバー五輪では、試合を見ながら色々話を聞かせてくれました。
オリンピックに出られて嬉しかったということなどさまざまを、もうすっかり流暢になっていた英語で、です。

その後の躍進は皆さんもご存知のことと思いますが、その後も、いつどこで会っても必ず穏やかににこやかに挨拶してくれました。
ビッグスケーターになっても、そういうところが変わらなかった。

思い出深いのは、2013年世界選手権フリーです。
世界選手権での初めてのメダルがかかる中、ショートは7位。
フリーは15番滑走でした。
冒頭の4回転トウループは決めたものの、続く4回転サルコウはパンク、演技後半ではもう一度4回転サルコウに挑んで成功。
よし、と思ったあとに3回転ルッツがパンクしてしまいます。
そんな、アップダウンのある演技の終盤のことです。
ステップを終えて最後のジャンプに行くところで、私が見ていたショートサイドの前を滑っていきました。
ちょうど、スケートの2蹴り分くらいのほんの1,2秒のことなのですが、あのときの彼の表情を、今も時々思い出します。
必死、切実、なんとかしなくては、というような思いがさまざまに入り混じったあの表情。
その前のシーズンにはグランプリファイナルで3位に入っているし、このシーズンにはグランプリでも初優勝、ヨーロッパ選手権も初優勝を果たして臨んだこの大会では多分、メダルをとらなくてはという思いがあったのだと思います(明言はしていなかったかもしれないけれど)。
前述のそのシーンや、コミカルなパートでも目が笑えていない必死さにとても打たれたし、私には想像もつかないような思いを持って試合に臨んでいるんだろうなと、思わせられないではいられませんでした。
結果は銅メダル。初めてワールドのメダリストになりました。

あとはやっぱり昨季の『ラ・マンチャの男』を初めて見たときのことも。
夏に羽生選手の取材でトロントに行ったとき、一緒に練習していたハビの曲かけになったのですが、流れてきたのは、『ラ・マンチャの男』。
スペインを舞台にしたこの曲をこのシーズンのフリーに選んだことや、最後のパートが『The Impossible dream(見果てぬ夢)』だったことに、もう、ぐっときちゃいました。
ソチ五輪後に2度世界チャンピオンになっている彼が、平昌五輪をひとつの集大成と考えていることが伝わってきたから。

その後、使われている部分の歌詞を調べ、また胸を打たれました。
傷もいっぱいだけど、最後の勇気を振り絞って、とどかぬところにある星に手を伸ばす、というような内容(ざっくりです)で。
いちいち深読みして勝手に胸を震わせるのはどうなんだろうかと思う自分もいるのですが、この『ラ・マンチャの男』に関しては、というか、長く見てきたハビに関しては、そんなふうに思っちゃってもいいかな、と思ったりもしました。
そして、平昌五輪での銅メダル。本当に嬉しかったです。

2017年世界選手権。フリーの後しばらく経ってから、インタビューを受けに来てくれました。

そのハビが、日本時間の24日(金)に、ヨーロッパ選手権のショートに、25日(土)にフリーに出場します。ショートは最終滑走ですね。
いずれも日本時間で夕方から夜にかけの時間帯。
7連覇がかかっている大会ですが、なにより、彼らしい演技ができますように、と願うばかりです。

イヤイヤ期の2歳児がいる現在、この時間帯は、テレビ画面を占領するのには大変に難しいのですが、ハビの演技だけはライブで見ようと思います。

(以前、AllAboutで記事を書いていたころには、「フェルナンデス選手について、個人的な思い」というものも書いています。)

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(※同日の午後の遠鉄校での講座と、基本的には内容は同じです)

 

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ライター 長谷川仁美です。 フィギュアスケートのこと、そのほかに日々のことなどを。 「やっぱり、フィギュアスケートっていいな」「やっぱり日常っていいな」という思いで、このサイトを続けています。