スケート雑感

世界一を目指すと公言することについて。

数日前、坂本花織ちゃんの、世界一になりたい、という言葉を見て、ちょっとどきっとしました。

シニアデビューだった昨シーズン、シーズンが深まるにしたがってぐいぐいとうまくなっていく彼女のスピードに驚かされました。
今季のシーズンはじめは、今季はルールが変わるので、ルールに慣れるために、トリプルアクセルにも4回転にも挑戦しない、といったを話していて、昨シーズンの押せ押せイメージと随分違っているんだな、どうしたんだろう、と思ったりしていたのですが、DOIで見せた今年のフリー『ピアノレッスン』がすごくって、これはなんかすごいかもと思っていました。って、すごいとしか言っていない……なんというのか、凄みみたいなものを見せるようになってきているんだなと驚いたんです。すごくハードで、1つ欠けても五輪には行けなかったかもしれない梯子の段をすべてがっちり糧にして五輪出場を勝ち取ったシーズンっていうのは、彼女にとってものすごく大きなものだったんだな、と感じていました。

昨年末の、優勝した全日本選手権、最終滑走のフリーもちょっとすごくて、再び、凄みを感じました。

振り返ると、その2週間前のグランプリファイナル4位の囲みで、「ここで3位になって表彰台に上がっちゃったら、もうなんかふわふわした気持ちで全日本に臨むことになっちゃう。そうならないための、神様からのお告げなのかな」と話していました。いつものようにニコニコしていたけれど、相当悔しさを感じたからこその全日本のあの演技なんだろうな、と感じました。

そして、冒頭の話につながります。

東京ミッドタウンの屋外リンクの外側のフェンス。かわいい。

先週インターハイに出場した彼女の記事を読み、中野先生を含めたすべての人に出場を反対されたけれど、高校にお世話になったからという思いで出場した(そして優勝した)ということを知りました。先生たちのご指摘はもっともです。だって、四大陸は時差のあるアメリカで、2月7日にはショートプログラムがスタートするわけだし。

ただ、このエピソードで、私の中の坂本花織像がかなり変わりました。

これまでなんとなくあった私の中の彼女像の輪郭が急に太くくっきりして、すごくリアリティが出てきました。何度も個別でインタビューもしてきたし、毎回いろいろお話をうかがえたけど、それよりなにより今回、くっきりした。なんだろう、彼女の思いや人となりが見えた、というようなところなのかな、まだ自分でもよくわからないのですが。

そして同じ日に読んだ、「世界一になりたい。来季になると(ロシアのジュニアの子たちが上がってくるはずなので)もっときつくなっちゃう。今年の世界選手権しかチャンスがない」とのコメントにものすごくはっとさせられ、私はずっと、彼女は世界選手権の表彰台に乗りたいんだろうな、となんとなくぼんやりと思っていたことに気づきました。ごめんなさい。そして、そうか、そうだよね。世界一に、本気でなりたいですよね、ということが、大変に強く私の心に響きました。

世界トップレベルで戦っている人たちの多くは、世界一になりたい、と思っていると思います。でも、それを公言するのって怖いし、公言することによってさまざまなことが起こるだろうし、公言したほうがいいのかしないほうがいいのかそれは人によると思うのですが、世界一になりたいという思いを公言することで、もう逃げられない場に自分を追い込んだんだ彼女の姿勢にほれぼれしちゃいました。

それに、自分のキャラを感覚的に理解しているからこそ、来季になるとロシアの子たちが来るから今のうちに取っておかないと、といったことを言ったのかな、とも感じました。もちろん本音ではあるのだろうけれど、世界一になりたいという思いの真剣さを、感覚的に、笑いのオブラートに包んだのかな、と。ただ、そのあたりのナチュラルな匙加減によって、世界一を本気で目指しているということが却って際立って伝わってきたようにも感じます。

昨季から振付師のリショーさんからは、世界一にしたい、と言われていたとか、中野先生からは、世界一になるつもりなのが伝わってこない、と言われてきたそうで、ということはつまり、長いこと日常的に「世界一を目指していい状況に自分がいる」ということを受け入れているというか、納得している状況にいるんですね。周りから、ある意味お墨付きをもらっている状況に。それなら、覚悟を決めたら速い、と思います。

そして、ここからが坂本花織のすごいところなのですが、公言したからには、覚悟を決めたからには、それを現実にするために力を尽くし、何があっても現実にする。実際、それを昨シーズンや今シーズンの全日本で、私たちも見てきました。

さあ、まもなく四大陸選手権です。どうなるかな。
そして、世界選手権もやってきます。
ぎゅっと集中して覚悟を決めたときの強さ、そしてそのかっこよさや美しさを、シーズン後半の彼女に見せてもらいたいな、と思うと同時に、多分そう思っている人がいま急激に増えていると思うので、そんな「やってくれるはず」と思われたところでどんなものを見せるのか、そんな新しい状況で坂本花織を見つめたい、そう思っています。

 

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SBS学苑静岡校
●2月16日(土)10:00-11:30
「華麗なる氷上の戦い 男子フィギュアスケートの世界」
現在、フィギュアスケートの男子では、羽生結弦、宇野昌磨、ネイサン・チェンらが活躍しています。羽生結弦の自叙伝に携わるなど、多くのトップ選手の声を聞いてきたライターが、ヤグディンやプルシェンコの時代から現在までの男子シングルの世界を、取材現場でのエピソードや裏話を交えて振り返ります。
(※同日の午後の遠鉄校での講座と、基本的には内容は同じです)

 

SBS学苑遠鉄校
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「華麗なる氷上の戦い 男子フィギュアスケートの世界」
現在、フィギュアスケートの男子では、羽生結弦、宇野昌磨、ネイサン・チェンらが活躍しています。羽生結弦の自叙伝に携わるなど、多くのトップ選手の声を聞いてきたライターが、ヤグディンやプルシェンコの時代から現在までの男子シングルの世界を、取材現場でのエピソードや裏話を交えて振り返ります。
(※同日の午前の静岡校での講座と、基本的には内容は同じです)

 

朝日カルチャーセンター新宿教室
●3月2日(土)13:00-14:30
「フィギュアスケートの楽しみ方 ~ヤグディンとプルシェンコを語る(2)」
多くのスケーターたちが憧れたアレクセイ・ヤグディンとエフゲニー・プルシェンコ。2回目の今講座では、2002年ソルトレイクシティオリンピックとそこまでの時期の2人の凄まじさについてお話します。毎シーズン、グランプリファイナル、ロシア選手権、ヨーロッパ選手権、世界選手権と、ともに出場する試合で、ものすごい演技を見せてきた2人。 “ライバル関係”と呼ぶには激しすぎる2人の、筆舌に尽くしがたい戦いを熱く語ります。

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ライター 長谷川仁美です。 フィギュアスケートのこと、そのほかに日々のことなどを。 「やっぱり、フィギュアスケートっていいな」「やっぱり日常っていいな」という思いで、このサイトを続けています。