デニス・テンの訃報に

子どもを寝かしつけながら一緒に寝落ちてしまっていた木曜日の22時過ぎ、「デニス・テンが亡くなったって」というLINEが夫から届いた。
一気に目が覚めて鼓動が速くなる。
なんのことかわからないけれど、とにかくツイッターを開くと、私のタイムラインは、もうその情報で溢れていた。
ツイッターをさかのぼり、事態を把握する。
混乱する頭と感情。
世界中のスケーターたちが、この件についてツイートしていた。
どうやら、本当のことみたい。

デニスを思う時に浮かんでくる演技はいくつかあって、そして思い出すシーンもいくつかあります。
なかでも、2009年の世界選手権で、初めて彼にインタビューしたことはよく思い出してきました。

2009年の世界選手権に初出場した彼は、ショート17位で登場したフリーで、素晴らしい演技を見せました。
最終的にフリー6位、総合8位となるその演技は、彼のすべての力、技術、思いを出しきったようで、ロサンゼルスの会場の多くの人がスタンディングオベーションで称え、もちろん私も立ち上がりぞくぞくするような興奮に浸りきって……という気持ちのいい思い出です。
翌日オフアイスで見かけた彼は、前日のあの選手だったのかわからないくらいの少年で、「デニス・テンさんですか?」と、本人なのかどうかを確認してから、インタビューをお願いしました。

女子シングルのフリー後に会いましょうということになり、翌日所定の場所で会うと、すぐに女子の会見が始まるという情報が。
でもデニスにわざわざ来てもらったし、「じゃあ、インタビューしましょう」と言うと、「会見はいいの? 僕は時間があるから、会見を一緒に見て、その後インタビューでいいですよ」と言ってくれました。
ありがたい申し出に一緒に女子の会見場に向かうと、もう人でいっぱいで、並んで座れる席がありませんでした。
すると「僕は後ろでいいので、前の方に行ってください。会見が終わって合図してくれたら出てインタビューにしましょう」と言ってくれたので、じゃあ、と私は前の方に空いた席に座りました。

会見の途中、私は、後ろにいたカメラマンさんに「今、あの選手を撮ってほしい」と合図するため立ち上がりました(周りに迷惑にならないよう配慮しました)。
すると、ひょこっと立ち上がったのは、デニス。
偶然、カメラマンさんの前にデニスが座っていたのですが、立ち上がって後ろを振り向いた私を見て自分を探していると思い、すぐに立ち上がって「ここにいますよ。OK、インタビューですね」という合図をくれたのでした。
大変にちゃんとしている15歳です。
ああああ、ちがうんだーーー、と思いつつ、でも訂正することもできなかったので、会見の途中で外に出てインタビューを始めました。
あの、実直でちゃんとした人だなあという感覚、今も残っています。

いつも感じよくにこやかで、ときにマシンガントークで、ときにシリアスに話してくれたいろいろによって、彼のインタビューページはいつも充実したものになりました。
ちゃんとこちらの意図を汲んでくれる答えは、本当にありがたかったです。
その後も、試合で会ったり、インタビューをお願いしたりしたことで、私の中に、彼の思い出はさまざまあります。
でもこれからは、どこかに行っても、彼に偶然会って「Hi,how are you?」って声をかけてもらうことはないんですね。

日本時間の土曜日の13時ころから彼の葬儀が始まったようなのですが、私はちょうどその時間、朝日カルチャーセンターの講座でお話をしていました。
講座の最後に、デニスのお話をして、2009年世界選手権フリーを流しました。
みんなで見たいなという思いで流したのですが、もしかしたら参加された方の中には、まだ彼の演技を見られない気持ちの方もいらっしゃったのかもしれないなと講座後に気づきました。
もし、あの時間にさらにつらい思いを感じた方がいらっしゃったら、申し訳ありませんでした。

帰宅後、葬儀の写真などを少し見ると、ものすごく立派な棺の中にどうやらデニスがいるようでした。
何枚か見ていくと、横たわる彼の顔がほんの少しうかがえる1枚がありました。
それでもまだ現実感がありません。
ただ、いつも試合やショーに一緒にいらっしゃっていたお母様のお写真を見たときには、胸が締めつけられるようでした。
デニス本人もお母様やご家族も、無念だろうなと思います。
この数日、SNSなどで彼の人となりをさまざまに見るにつれて、その思いは強くなるばかりです。

まだ現実のものとしてはとらえきれていなくて、なぜ彼が、と思ってしまったりもするのですが、もうあれから4日が経とうとしています。
彼がいなくなってしまったことは本当に残念で悲しいし、いつかこの思いが薄くなることがあるとは今はまだ思えません。
ただ、そういう思いを抱えながら、これからの日々を自分なりにちゃんと生きていかなくては、と強く思うようになりました。
折に触れて、彼のことや彼の演技を思い出したいと思います。

ご冥福をお祈りします。

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