インタビュー

「一度もお会いしたことはなくても衣装はできるし、年を追うごとに深いものができるようになるんです」ソフィーさんインタビュー(3)

(以前、noteに掲載したインタビューの再掲です。一部、修正を入れています。)

ソフィーさんインタビュー(3)

―ASTRAEEのサイトでは、これまでつくられた衣装がたくさん見られますね。
よく知っている衣装もたくさんあるし、小さな子たちの衣装もかわいいし、フィギュアスケートの衣装っぽくないところにもはっとさせられます。

スケートの衣装って、少し型が決まったような、どうしても同じようなテイストになりがちだと感じることがあるので、違ったテイストが生まれるように、と考えています。
「フィギュアスケートの衣装!」というよりも、よりシックで、街にも出ていけるようなデザインにすることもよくあります。

スケートの衣装には、きらきらしたストーンや飾りがたくさんついているけど、この衣装は、飾りが邪魔にならない、着やすい仕上がりになったと思います。
花がプリントしてある生地を使うことによって、インパクトも与えられますしね。

―スケートの衣装では、ジャンプのために軽くしよう、とか意識してつくられますか?

もちろん、ずっしり重くなるようなものにはしないです。
でも、生地の重さなどよりは、ジャンプの時に動きを邪魔したりしないこと、余計なものがあってジャンプを締める時の動きや回転軸を不安定にするようなものじゃないこと、により注意しています。
だから、ストーンなどをつけるときも、どの部分だったら邪魔しないか、ということに気を配っていますね。
腕とスカートのストーンは、特に。

―たとえば、体型をより美しく見せるようなデザインをしたりすることは?

衣装屋である私にとって、美しく魅せるということは一番大切なことです。
会ったことがない人の衣装をつくるのって、難しいんですよね。
体型がわからないと、どんなものが似合うのかとかどこを強調するのがいいのかとかがわからない。
でもそれでは考えようがないので、まず写真やビデオをたくさん送ってもらいます。
氷の上にいる時だけでなく、普段の姿もね。「その人」の全体的なバランスをつかめるように。
それから、サイズが大切です。
みんなサイズって秘密にしたがるけれど、自分で寸法表に記入してください、とお願いしています。

そういうことを経て、それぞれの人の長所を活かすデザインを考えています。
みんなそれぞれ体型は違うものだし、足の長さも、どこを出した方がいい、このあたりを隠した方がいい、っていうのも全然ちがうものだから。

―ちょっと驚いたのですが、スケーターに会わないで衣装を作ることも多いのですか?

(会わないで作ることは)結構あります。
遠方に住んでいるとなかなかフランスまで来られないですし。
だから、ビデオがすごく大事なんです。
その人の体型やプログラムの動きはもちろんのこと、さらに、動きの特徴とか癖とか、たとえば、肩がダイナミックに動く人にはフレキシブルな衣装が必要になるし、どこまで見せたらいいようなデコルテや背中をしているかとか、胸のサポートはどのくらいしようか、とか。
たくさんのビデオを何回も何回も見て、っていうのは簡単なことじゃないのですけど、そうやってつくっています。

―坂本花織選手にもここまでシ5ーズン衣装を作られていますが、もしかして、会っていない?

そう、会っていませんね。
彼女だけじゃないけど、一度もお会いしたことはなくても衣装はできるし、年を追うごとに深いものができるようになるんです。
最初は、どんなものが好きかとかを聞き、デザインを3,4個描いたものを見てらって「これがいい」と意見を聞く……という風に、外側から入って、協力して進めていきます。

やっぱり、最初が一番緊張するし、一番難しい。
実際に作った衣装を見て、本人が思い描いたものができているのか、っていうのが、最初は把握しにくいので。

カオリとは、1回目がうまくいって、そのあと5年やってきたことで、彼女のだいたいの好みもわかってきましたね。
選手によって、ぴったりした衣装が好きな人もいれば、そんなにきつくないほうがいいという人もいますし、そういうことも含めて、回を重ねるごとにお互いにやりやすくなって、よくなっていっていると感じます。

―スケーターに会わずにあれだけの衣装をつくれることに、まだ驚いています。坂本選手の衣装は、5年制作されていますね。

そうですね、2017年が最初で。
平昌五輪の年の『アメリ』のカーキの衣装からです。

―『アメリ』の衣装は、ああいう衣装っぽくない衣装の素敵さにいいなあと思いましたし、カーキという色もまた珍しかったですよね。

もともと『アメリ』はエプスリが効いたパリの香りがするものだったので、衣装もキーワードがフレンチでした。
映画の舞台とか年代など、映画のエッセンスを反映するようなものにしようと思って、いつものようにいくつかデザイン画を描きました。
オートクチュール系の生地を見ていたらレースがとてもきれいなカーキ色の生地を見たときに、これだ、って思って、すぐにブノワに「この生地がすごくいいと思うけどどう思う?」と伝えたら「いいね」って進んだんです。

―ブノワさんにインタビューしたときに、そのあと赤の衣装にしたのは、「赤の方が強い色だし、カオリに会っている。それがより高いPCSに繋がる」ということで変えたそうですね。カーキと赤は、型紙は同じものですか?

型紙はまったく同じです、色を変えただけですね。
ただ、カーキの方にはキラキラがついていなかったけど、赤の方にはつけてあります。
ブノワが言ったように、カオリが少しでもインパクトを残せる、目を引くようなものにしたかったからですね。

―ブノワさんとは、いつからお知り合いなのですか?

すごく前から知っていて、もう20年くらいになるんじゃないかな。
彼がジュニア時代、リヨンでアイスダンスをしていたときから知っているから。
選手をやめたあとに彼がコーチとしてスイスに行った時期も連絡を取り合っていて、その後にアイスダンスを教えることになったとき、その選手たちの衣装を作って、と連絡があったりね。
そのあとは、彼が名だたるスケーターを紹介してくれています。

―ブノワさんの競技時代の衣装もつくりました?

彼の最後のシーズンに1着だけ作りましたね。
あれから彼もテイストが変わったわよね。
パートナーは自分で誰かに頼んでつくっていたから、私はブノワのだけつくったの(笑)。

―そんなことが、あるんですか?!

普通はカップルだったら素材を合わせたりするのが普通だけど、まあ、そういうこともあるのね、ってつくりましたね(笑)。

―2021年の世界選手権でも、ソフィーさんの衣装をたくさんの方が着ていましたね。

そうですね、女子シングルだと、カオリとブレイディ(・テネル)はそれぞれ、ショートとフリーの2着ずつ。
リンゼイ(Lindsay VAN ZUNDERT/オランダ)のフリー。
男子では、アダム(・エイモズ)も、ショートとフリーの2着。
アイスダンスでは、アデリーナとルイ(Adelina GALYAVIEVA&Louis THAURON/フランス)のフリーですね。
アレクシア(Alexia PAGANINI/スイス)のフリーの衣装もつくったのですが、惜しくも、ショート25位とあと1人でフリーに進めませんでした。

―アイスダンスを2着とカウントすると9着も(アレクシアのフリーも入れると、10着)。
自分の衣装を着ている選手が滑るのを見るのって、どんな気持ちですか?


もともと、「パフォーマンスの向上を助けるような衣装をつくりたい」というのが一番の思いなので、どのスケーターでも、必ず結果は追ったり見たりしています。

今回の世界選手権もそうですけど、ライブ中継や実際の会場で見たりするときには、選手より緊張していることもありますね。
自分の衣装がなにかパフォーマンスの妨げになったらどうしようみたいな気持ちもあるので。

そういうわけで、見ているときはすごくストレスがかかるんですけど、結果がよかったときとか、自分の衣装がマッチしたりイメージしていたような表現ができていると思えたときには、とても嬉しく、よかったなと思います。
何年も一緒にやってきた選手も多く、彼らが年々進化している姿も実際に見ているので、一緒に成長していきたい気持ちですね。

(通訳:Yuko SPRUNGさん)
(※)写真は、ASTRAEEの許可をいただき掲載しています。無断使用はお控えください。

▶ソフィーさんのアトリエのサイトは、こちら。素敵です
https://en.astraee.fr/l-atelier

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ライター 長谷川仁美です。 フィギュアスケートのこと、そのほかに日々のことなどを。 「やっぱり、フィギュアスケートっていいな」「やっぱり日常っていいな」という思いで、このサイトを続けています。