ミーシャ・ジー インタビュー@さいたま

世界選手権が終わって1週間以上が経ちましたが、まだまだあの熱狂の中にある方も多いと思います。

その世界選手権では、大会期間中の忙しい時間の合間を縫って、ミーシャ・ジーさんにいろいろなお話をうかがいました。

彼にはこれまで何度も話を聞いてきましたが、お話を聞いていると、あれもこれもそれも聞きたいという思いが次々にわいてくるのですが、今回はそうした図々しい質問にも、想像以上に率直に答えていただいています。

【ミーシャ・ジー】1991年5月17日、ロシア・モスクワ生まれ。ウズベキスタン代表の元男子シングル選手。スケートのコーチだった両親とともに、10歳から中国で生活。18歳のころアメリカに移るなど、さまざまな土地での生活経験を持つため、英語、ロシア語、マンダリン(一般的な中国語)に堪能。国際大会ほぼ初出場だった2011年四大陸選手権での鮮烈な演技で知名度を上げた。2014年ソチ五輪17位。2015年世界選手権6位。2018年平昌五輪17位。2018年世界選手権が現役最後の試合となった。印象的な演技が多く残るが、まだご覧になっていないのであれば、2017年世界選手権フリー『くるみわり人形』をぜひ。

新しい立場での初めての世界選手権

―スケーターとして8回世界選手権に出場し、今回初めて、スケーターではなくて振付師として……、だけでいいんでしたっけ?

「振付師とコーチですね」

―振付師とコーチとしてさいたまに来ました。違った立場での世界選手権は、どうですか?

「全然違うものだなって思っています。でも、「新しいな」と感じる部分と、「そこまで新しい感じでもない」っていう部分とがあるかな。スケーターとしてではないという部分では「新しい」。でも、僕の場合は両親がコーチだったから、小さいころからコーチの仕事とはどういうものか見てきたので、わかっている部分もあった。だから、「そこまで新しい感じでもない」という部分もあるんですね。

僕は、父親だけじゃなく、僕のことをこれまで指導してくれたたくさんのメンターたちの知識とともに教えています。僕を通して、僕の父、アレクセイ・ミーシン、ブライアン・オーサー、タチアナ・タラソワ、フランク・キャロル、フィリップ・ミルズとかの教えを、今、スケーターたちに指導しているということになるよね」

―自分の教え子が試合で氷の上で演技している時、どんなことを感じていますか?

「まずはその前に、技術面でも表現面でもメンタル面でも、できる限りの準備をしていく。それがとっても大切だから。そうやって、その生徒を最高の状態で試合に向かわせます。っていっても、なかなか簡単なことじゃないんだけどね。

試合で氷の上に立ったら、もうそのあとはスケーター次第(笑)。でも、生徒が滑っている時は、自分も一緒に氷の上で滑っているように感じているんです。生徒はリンクの中、僕はリンクの外にいるっていうだけで、同じ動きをしている感覚(笑)。だから、コーチによっては、生徒が滑っているときに一緒に激しく動いたりするわけなんだよね」

―でも、びしっとジャケットを着て、直立してじっと見ていますよね。

「意識してそうしているんです。昨日、アリ・ザカリアンが、女子SPのメドベージェワの演技を見るブライアンとトレイシーと僕の姿をSNSにアップしたんですね。そしたら、『なんでミーシャはそんなに穏やかにいられるんだ』ってコメントがあったんだけど、それにはこう答えるよ。『外側が穏やかであるからといって、内側も同じとは限らない。内側では、嵐が巻き起こっているんだよ』ってね(笑)。僕は、内側とのバランスを取ろうと思って、外では平静に立っているんです。

ここに来てからは特に、1日の終わりには、自分が空っぽになったような感覚になっています。毎日、すべてに全力を出し切っているから。8時から22時まで仕事して、でも頭が冴えているから夜中に目が覚めちゃう。今回は3選手(エフゲニア・メドベージェワ〔ロシア〕、ホンイー・チェン〔中国〕、エリスカ・ブレジノワ〔チェコ〕)と仕事をしているんだけど、みんなそれぞれに準備方法があって、それぞれの心理状態にある。集中したい人もいれば、楽しい気分で試合に向かいたい人もいるし、話しかけないでほしいという人もいて、そうしたすべてに合わせているから」

―試合の前に、ミーシャとコーチと選手は、試合ではこういう風に臨みたいといった話をしているんですか?

「そう。その3選手と、24時間365日一緒に帯同しているわけじゃない。年に何日とか、僕があっちに行ったり選手がこっちに来たりとか。だから3選手自身とコーチたちと、それぞれ試合の前に綿密に話し合いをして、どういう風に試合を迎えるかということをきっちりと決めています」

メドベージェワのSP『トスカ』について

―メドベージェワが12月のロシア選手権から新しく変えたSP『トスカ』の振付けについて、聞いてもいいですか?

「もちろん」

―オファーはいつ来ましたか?
「ロシア選手権の3週間前!」

―えー! そんな直前?

「そう。その時僕は、カズキ(友野一希選手)のロステレコム杯を終えて、アイスショーのためにアルメニアにいたんだけど、ブライアンから朝メールが来たんです。『メドベージェワの新しいショートを作りたいんだ』って」

―そのメールにどう返信を?

「おおお、ってびっくりしたけど、『OK、もちろん。次の試合は?』ってメールしたら、『3週間後だよ』って返事が来て(笑)」

―いやいやいや~(笑)。
「『いつカナダに行けばいいんですか?』って聞いたら、『できる限り早くね』って」

―それで、いつカナダに?

「メールをもらってから4日後です。合宿をキャンセルして、ロサンゼルスに一度戻る予定を変えて、アルメニアからカナダに直行しました。カナダに向かう飛行機の中でも新しい振付けのための仕事をして、17時にカナダに着いたらすぐリンクに行って、深夜まで8時間氷上で仕事して……大きなチャレンジでした」

―そこまでしたのは、メドベージェワというビッグスケーターの振付けだから?

「うーん、どのスケーターの振付けも、僕にとっては大切なんです。とはいえ今回は、とても難しく大きな仕事でしたよね。2週間半と時間がなかったし、彼女はビッグスケーターだし、彼女にとっては環境を変えたとても重要なシーズンだったから。それに、その前に滑っていたプログラムは、素晴らしい振付師のものだったっていう難しさもありました。

そうしたすべてを考えあわせると、彼女の内側の強さが伝わり、若い女の子スケーターではなく成熟した女性スケーターとしての美しさを見せられるプログラムにする必要があったんです。さらに時間も限られているから、彼女が入り込めるような曲である必要もあった。衣装についても、僕の衣装を長く担当してくれて来たエレーナ(Elena Pollack)と、ブライアン、トレイシー、メドベージェワ、僕の全員で話し合って、詳細まで細かく決めました。あの深く濃い赤は、ものすごく深い炎のイメージ。とても成熟したスケーターに見える衣装だと思います。そうしたたくさんの難しいことを、2週間ちょっとの時間で彼女はやり遂げました」

―音楽を『トスカ』と決めた経緯は?

「この『トスカ』は、強くパワフルでドラマティックでパッショネイト。なのでこの曲がいいとメドベージェワに送ったら、彼女も、『ワオ、これ、いいと思う。曲を感じられる』って。ほかにも候補曲があって、ブライアン、トレイシー、メドと聞き比べてみたんだけど、やっぱり『トスカ』が彼女に合うと思いました。いい判断だったと思います」

―彼らがあなたを、この大事なプログラムの振付師に選んだのはどうしてだと思いますか?

「それは、彼らに聞いてよ(笑)」

―そうですよね、失礼しました(笑)。

「メドベージェワによると、他にも振付師の候補がいたそうなんだけど、最後にブライアンが、『よし、ミーシャにしよう』って言ったみたいです。

彼らがなぜ僕を選んでくれたのかはわからないけど、その決断をありがたいと思っています。メドベージェワと一緒に仕事できたことにも、トレイシーとブライアンと一緒に仕事できたことにも感謝しています。コーチ2人と一緒に仕事したことで、選手たちを裏でどうサポートするのかということの勉強もさせてもらいました。クリケットクラブ(メドベージェワのホームリンク)で2人は僕に、振付けだけでなく、技術やスピンの細かいところなどについても指導させてくれました。そういう意味で、2人には、あのチームの中に僕も入れてくれたことにも感謝しています。エリートスケーターのエリートコーチたちにとっては、新しい若いコーチをチーム内に入れることはなかなか……だったりするけど、僕を信じてくれたことにも感謝しています。彼らをすごくリスペクトしています」

複数の選手に振付ける、ということ

―今大会に出場している中では3選手に振付けをしていていますが、3人はライバルといった関係ではないですよね。たとえば、同じカテゴリーの同じレベルの選手のプログラムを振付ける、といったことについては、どう考えていますか?

「フレキシブルに対応したいと思っています。振付師として僕は、どの選手にも全力で振付けをします。振付けた選手たちが、友達とかライバルとか仲がいいとか悪いとかは別の話。僕はいつもオープンだし、一緒に仕事するスケーターには最大の注意を払うし、リスペクトしています」

―あなたの仕事ぶりを見ていると、面倒見のいい振付師、コーチだなと感じます。
「ありがとう。そういう思いでやっています」

―とすると、もし同じカテゴリーの同じレベル、それもトップレベルの複数の選手に振付けをすることになったら、そのスケーターたちとどう接していきますか?

「そんなことが起こるかどうか、わからないけどね(笑)!」

―もしそんなことがあったら?

「試合でそういうことになったら、僕はどちらの人にも100パーセントの力を尽くして、そのあとは下がって見守ります。どちらにも同じだけのサポートをしたいから。今大会の女子フリーでは、ホンイーとエリスカが同じグループで滑ることになりました。僕は彼ら2人に振付けをしただけじゃなくて、コーチもしている。だから2選手のチームとそれぞれ話をして、こういう状況だと事前に話をしています」

―わかりました。では、振付師やコーチとして、どんなときに幸せを感じますか?
「スケーターが幸せを感じたとき、だと思う」

―たとえばSPでのメドベージェワ、素晴らしかったです。強い思いが伝わってきました。私と同じように感じた人も多いと思うんですが、彼女の演技から、ミーシャはどんなことを感じましたか? 「これ、僕の振付けなんだよー」って思ったりは……?

「いやいや、そういう思いは本当にないです。彼女が滑り終えたとき、僕は、チームとして本当に嬉しかった。『チームワークの結晶だな』と思ったんです。メドベージェワはもちろん、ブライアンやトレイシーがどれほど献身的に仕事をしてきたのか知っていたから。あれはチームの勝利なんです」

―本当におめでとう!

「ありがとう。でもまだフリーが終わってないから(笑)!」

―そうでしたね。では、カズキ(友野一希選手)についてですけど……

「ラーメンボーイだね」

―彼はラーメンが好きですよね。

「ああ、ちがった、新しい名前になったんだった。ラーメングル、だった(笑)。ラーメンのすべてを知っているから」

―はい。引き続き、来季も彼と仕事する予定ですか?

「はい、彼のために力を尽くします。来季のプログラムの候補曲を、7~10曲くらい送ってあります。これはまだアイディアレベルの話なんだけど、彼には広くたくさんのことを知って探求してほしいと思っているんですね。だから僕のメンターたちを紹介して、彼らのところで、さらにたくさんのことを学んでほしいとも思っています。僕は彼のコーチでもあるから、そういう思いになるんですよね。僕の振付けたものだけを滑っていればいいとは思わないんです」

―なるほど。さて、現役を終えてからまだ1年ですが、ものすごく活躍した1年でしたね。

「プログラムは、32個作りました」

―すごい数ですよね。それで、休みは取れていますか?

「ノー! 休みを取っても、スケートのことを考え続けちゃうと思うんだよね。どの音楽がいいかな、どのつなぎやステップがいいかな、とか」

―ワーカホリック?

「いやいや、ワーカホリックではないんじゃないかな。休みがないとはいっても、たまにはだらけているときもあるし、がんばろうと自分を奮い立たせている部分もあるから」

―1週間くらい、なにもしない休暇をとってリフレッシュしてみたらどうですか?

「考えておくね!」

―それだけ忙しいミーシャですが、各国のスケーターに振付けたたくさんのプログラムを、シーズン中に手直ししたりしていますか?

「しています。さっき言ってくれたように、自分で言うのもおかしいけれど、僕はよく面倒を見るタイプでもあるから、シーズン中に、自分が行けたら自分が行き、スケーターが僕のところに来られるならスケーターが来るっていう形で、何度も手直ししています。メドベージェワのSPも、その後手直ししているんですよ。

2月22日のロシアカップファイナル(ロシア国内のGPファイナルのような大会。メドベージェワはこの大会に出場して優勝。最終的に、この優勝が世界選手権代表への決め手になったと言われている)のあと、僕はトロントに行って、彼女のプログラムの手直しをしました。っていってもその時はまだ、メドベージェワが世界選手権に行けるかどうかはわかっていなかったんです。周りからは、『ミーシャがメドベージェワのところに行ったってことは、彼女が世界選手権に行くってことだね』って言われたけど、違うんです。本当に知らなかった。っていうか、決まっていなかったから誰も知らなかった。僕は4日間クリケットにいたんだけど、その最終日、トロントを発つ日に、『世界選手権に行くことになった』と聞いたんです」

―そうだったんですね。今だから話せるお話をたくさん聞かせていただきました。ありがとうございます。最後に、今後のスケジュールは?

「6月まで、振付けと合宿で埋まっています。今年は、これまで以上にオファーをいただいてすごく感謝しているんだけど、実はもういくつかお断りしたんです。スケジュール的にいっぱいいっぱいだから。アイスショーの話もあったんだけど、その時にはすでに振付けのスケジュールが入っていて。これからも100パーセントでがんばります。じゃあ、そろそろ女子の練習に行くね。またね!」

いまだからこそ聞ける、話せる、という、裏話的なこともお話いただき、フィギュアスケートの過酷さ、熱さを改めて感じた時間にもなりました。Thank you, Misha!

以下では、過去のミーシャ・ジーさんのインタビューが読めますので、ぜひ!

ミーシャ・ジー インタビュー(1)/ ミーシャ・ジー インタビュー(2)/ ミーシャ・ジー インタビュー(3)/ ミーシャ・ジー インタビュー(4)(2018年5月インタビュー)

▼ミーシャ・ジー選手インタビュー(2017年5月インタビュー)

▼フィギュア選手の「最後のシーズンかも」との言葉から(2017年2月インタビュー)

▼男子フィギュア、ミーシャ・ジー「変化のときが来た」(2014年3月インタビュー)

********************************************

以下こんな講座もあります。

もっと!ヤグディンとプルシェンコを語る

4月16日(火)19:000-20:30 朝日カルチャーセンター新宿教室

1月と3月の講座、「ヤグディンとプルシェンコを語る」が好評だったことから、さらにこの2人の戦いを掘り下げる講座です。今回は、2000-01シーズンのグランプリファイナルと2001-02シーズンのグランプリファイナルに大会を絞り、深くじっくりお話します。1月と3月の講座に参加された方はもちろん、参加されなかった方にも、2人のファンにも2人を知らない方にも楽しんでいただけます。2人の熱い戦いを堪能しましょう。

フィギュアスケートの楽しみ方 ~2018-19シーズンとは・・・~

5月11日(土)13:00-14:30 朝日カルチャーセンター新宿教室

2018-19シーズンには、大きなルール変更がありました。これによってどんな変化があったのか、なかったのか、また、それぞれの選手たちがシーズン前にはどんなことを思い、結果的にどんな時間を過ごしたのか……など、今季全体を振り返る講座です。シーズンインしてからは毎週のように試合があったため、記憶はどんどん上書きされてきましたが、国別対抗戦から1か月たち少し落ち着いた今、今季を俯瞰します。

6月は、DOIとかぶってしまいました・・・。

フィギュアスケートの楽しみ方 ~伝説の演技を知る!~

6月29日(土)13:00-14:30 朝日カルチャーセンター新宿教室

「アイスダンスと言ったら、トーヴィル&ディーンの『ボレロ』だね」とか、「ペアと言えば、ゴルデーワ&グリンコフの『月光』でしょう」など、フィギュアスケート界には、伝説の演技というものがあります。伝説の演技には、伝説になるだけの理由があり、それを知ることで、ますますフィギュアスケートが好きになることと思います。今回の講座では、そうした伝説の演技を、当時のスケーターの状況や思いとともにお話します。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする