2022北京オリンピック

北京五輪の「出場枠の計算方法」。変更されてよかったなという思い、のまとめ。#フィギュアスケート

去年3月末、つまり昨シーズンの世界選手権終盤を覚えていますか?あの頃、変更された「北京五輪の枠の計算方法」で大混乱……の嵐が吹き荒れていましたよね。
「2人の順位合計ポイントが13以下なのに、五輪の3枠が決まらないってどういうこと?」「でも、13ポイント以下で、五輪3枠が決まった国もあるよね?」「チャレンジ権ってなに?」と、「???」でいっぱいになりました。
いまさらではありますが、そんなあれこれを、いつか気になったときのためにまとめておきます。

なぜ変えた? の前に、北京五輪の枠取りの計算方法を確認しておきます。

北京五輪の枠の計算方法

これについては、ISUのルール400「Entries to the Olympic Winter Games」にすべて書かれています。英語ですが、原文を読みたい方は、こちらのP29~をどうぞ。

ここに書かれていることはこんな感じです。

「北京五輪の枠の計算方法」について(ざっくりまとめ)

  • 1)五輪出場は男女シングルが30枠、ペアが19枠、アイスダンスが23枠
  • 2)そのうち、前年の世界選手権(2021年ストックホルム大会)で、男女シングルは24枠、ペアは16枠、アイスダンスは19枠は決まる。
  • 3)残りの男女シングル6枠、ペア3枠、アイスダンス4枠は、五輪予選大会(ネーベルホルン杯)で決める。
  • 4)2)の世界選手権2021の結果からの計算方法は、通常通り。
  • 5)4)の計算で「2」枠、「3」枠になった国々が、いつもの通り「2」枠、「3」枠をゲットできるとは限らない。フリーに1選手(組)だけが進出して「2」枠ゲットした場合と、フリーに2選手(組)が進出して「3」枠ゲットした場合は、フリーに出場した選手分の枠数のみがここで獲得となり、「+1」枠獲得のために予選大会(ネーベルホルン杯)に出場する。
  • 6)「+1」枠をゲットするための予選大会(ネーベルホルン杯)には、世界選手権2021でフリーに進出した選手たちは出場できない

具体例として、アメリカ男子シングルを。

ということで、アメリカ男子を例にして、具体的に見てみます。

世界選手権2021に3人(ネイサン、ジェイソン、ヴィンセント)が出場。
しかし1人(ヴィンセント)がフリーに進出できず。
残る2人が1位(ネイサン)と7位(ジェイソン)で、合計「8ポイント」。

ここまでは、いつもと同じでした。ここから変わります。

2選手で8ポイントなら3枠なのですが、ゲットしたのは、北京五輪「2」と、「+1」の「チャレンジ権」でした。

また、予選大会のネーベルホルン杯には、世界選手権2021のフリーに進んだ選手(ネイサンとジェイソン)は出場できません

(実際、2021年のネーベルホルン杯にはヴィンセントが出場しました。そこで優勝したので「+1」枠をゲット。よってアメリカ男子は「3」枠となりました。)

なぜこうした計算方法になったのか?

選手(組)の実力と出場選手の顔ぶれとの、バランスの悪さをするため

たとえば、あるカテゴリーのA選手は、いつも世界選手権表彰台に乗るレベルだとします。
A選手が1人で世界選手権に出場し、1位か2位になったら、翌年は「3」枠になります。

さて、翌年の世界選手権になりました。
A選手、B選手、C選手の3人で出場です。
A選手は、今年も表彰台争い。対してB選手とC選手は、SPで圧倒的な最下位争いをするようなレベルでした(今はミニマムスコアがあるので、そこまでの差は生まれないと思いますが、あくまでのたとえ話ですので)。

B選手やC選手はそのくらいのレベルなのですが、世界選手権には出られます。
それは、その国が「3」枠を持っているから。
その「3」枠っていうのは、レベルの高いA選手が1人で取ってきたものだから、です。

ほかの国には、B、C選手よりレベルの高い選手がいますが、彼らは(自分よりレベルの低い)B選手、C選手に回った枠のために、世界選手権に出場できません

これでは、少々バランスが悪いですよね。

これまでの五輪でこうしたバランスのよくない感じをたびび目にしてきました。多分こうしたところから、この計算方法に変わったのかな、と想像しています。

新しい計算方法で、バランスの悪さはどうなるか……

さらにたとえ話を続けます。

このA、B、C選手が世界選手権2021に出場していて、1位、29位、30位だったとします。ポイント的には「2」枠ゲットですね。

ですが! B、C選手はフリーに進出していません。よって、ゲットしたのは、五輪「1」枠と「+1」のチャレンジ権です。B選手かC選手がネーベルホルン杯に出場し、枠を取ってくる必要があります。

ネーベルホルンでのこの国のことを想像すると、「+1」枠をゲットするのは多分難しい、ですよね。なぜなら、B or C選手より上手な選手たちがネーベルで獲得できる五輪枠(通常は6,しかし今回のみ7)以上にいるからです。

するとこの国は、計「1」枠になり、多分、A選手だけが北京五輪に出場することになるでしょう

本来の実力では五輪枠を取るのはかなり難しい選手が五輪枠を使い、実力で取れるであろう選手が取れない、というバランスの悪い状況は、回避されそうです。

本当に「3」枠分の実力がある国は、ちゃんと「3」枠ゲットできる。

もちろん、先ほどのアメリカ男子のように、本当は世界選手権の上位レベルの選手(ヴィンセント)なのに、その大会(世界選手権2021)のSPでものすごく大きなミスをして、フリーに進めなかった、というケースもあるわけですよね。

それはそれで、彼らはネーベルホルンに行って実力通りの演技をすれば、ちゃんと「+1」枠をゲットできる。

B選手、C選手の存在によって枠が回ってこなかった選手たちのことにしても、今回のアメリカ男子のようなケースにしても、どちらに対しても誠実さ(とは言いすぎかな)とか対応の人間味のようなものを感じました。

平昌五輪のペアのアメリカのような、獲得枠が足りなくなる、ということを防ぐため。

できる限り、本来「五輪枠」をゲットできる実力を持つ選手たちが、きちんと五輪枠をゲットできるようにという考え方なんだろうなー、それはとてもいいことよねーと、世界選手権から半年くらいずっとぼんやり思っていました。

ですがその後もう少し調べてみたところ、平昌五輪前のペア代表枠で起っていたことを知りました。当時、私、知らなかったのかなー、忘れているだけなのかなー。

世界選手権2017で、アメリカペアは1組出場で10位でした。

下の緑色の表は、世界選手権2017のペアの最終結果です。

これをもとに、下のような表を作りました。「翌季枠」つまり、世界選手権2017で決まった平昌五輪の枠数がわかる表です。


この表の右列では、世界選手権2017の順位順に、中国、ドイツ、ロシア……とゲットした枠数を計算(累計)しています。
一番下の行のアメリカは、このとき1組しか出ていないので、10位で「2」枠ゲットです!

世界選手権2017の結果得られるはずの枠数の合計が、「16」を超えてしまい…

アメリカは「2」枠ゲットしたのははずです。はずなのですが、アメリカのゲットした「2」枠を累計に足すと、17になってしまいます(表のオレンジ部分参照)。

思い出してください、世界選手権で決まるペアの五輪枠は「16」。17枠までは決められないんですね。

そのため、アメリカは「2」枠の権利を持っていたのに「1」枠になってしまいました。

わからない部分があるので、詳しい方、ぜひ教えていただきたいのですが……

この世界選手権のあと、平昌五輪予選大会のネーベルホルン杯に、アメリカはペアを1組派遣しています。
ただ、そこで7位。ネーベルで枠をとれるのは「3」なので、7位のアメリカチームは及びませんでした。

わからないのは……
このネーベルホルン杯で「3」枠以内の順位に入っていたら、アメリカは「2」枠ゲットできていたのか、ということです。
それとも、世界選手権で「1」と決まったし、ネーベルホルン杯は世界選手権で枠を取れなかった国が取りに行く大会(でもある)なので、たとえネーベルで「3」枠以内の順位に入っていても、平昌五輪は「1」枠だったのでしょうか。
後者っぽい気がしますけれど、世界選手権2018にはアメリカペアが2組出場しているし、どうだったのかしら……おわかりの方、ぜひ教えていただきたいです。

いずれにしても、アメリカは世界選手権で「2」枠をゲットできる成績だったのに、平昌五輪は「1」枠でした。

ちなみに、世界選手権2017で10位になったのも、平昌五輪に出たのも、同一のペア(アレクサ・シメカ・クニエリム&クリス・クニエリムだったことだけが、この事態をほんの少しだけほっとさせてくれます。

平昌五輪に出場したアレクサ・クニエリムが……

どんどん脱線していきますが……
五輪後にクニエリム夫妻が出場した世界選手権2018についても少し。

アメリカは2組で出場したのですが、振るわず、翌季ペア1枠になってしまいます……
1枠になった2019年は、2017年ネーベルホルンに出たアシュリー・ケイン&ティモシー・ルデュクが9位と頑張って、再びの「2」枠に。2020年は世界選手権中止、2021年は、アレクサ・クニエリムがフレイジャーと組んだペアと、アシュリーケインたちの2組が出場し、北京五輪の「2」枠を無事にゲットします。

ああよかった、これで北京五輪には、ここのところアメリカペアを引っ張ってきた2組が行けそうですね、と思っていたところ、現在開催中の全米選手権に、なんとなんとクニエリム&フレイジャーが出場できなくなりました。コロナ陽性で(涙)。ど、どうなるのでしょうか……。

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ライター 長谷川仁美です。 フィギュアスケートのこと、そのほかに日々のことなどを。 「やっぱり、フィギュアスケートっていいな」「やっぱり日常っていいな」という思いで、このサイトを続けています。